人生: 過去ログ 2013年01月

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過去ログ 2013年01月

※下に行くほど新しい記事です。

2013.01.29(マンガ・アニメの話より)

2012年のマンガを振り返ってみたれやーッ!!(男らしい)

 チャンピオン読者が選ぶ! このマンガが面白い! 2013……でしたっけ?(考えてみたら正式タイトルを知らず)
 そういうイベントがこの世界にはあるのです。スペインの牛追い祭りがこの世界にあるのと同様に。
 僕もひとつの週刊少年チャンピオン愛読者だ。やるしかない!(やるっきゃ騎士くらい)
 でまあ週チャン・別チャンを除く「チャンピオン以外部門」BEST3からはじめてみよう! あ、基本的に人にオススメするという体裁で書いてます。みんなも読んじゃえばいいじゃん。

①チャンピオン以外部門

対象:2012年に単行本が刊行された別チャン・週チャン連載以外のマンガ作品から上位3位まで

1位『極黒のブリュンヒルデ』

 なんで表紙が脇見せやねん。いやちゃんと意味あるんです。あるのです……。そんなストーリーがはらむ様々な謎をざっくり割愛して目に映る話だけ抜き出すと、「悪の組織が生み出した、様々な超能力をもつ『魔法少女』たち。偶然の出会いからその秘密を知った主人公は、彼女らを組織から救うため奮戦する」という、なんか眠くなるような話なんですが、これが既視感や退屈感ゼロの謎あり笑いあり痛快ありの誰にでもおすすめできる娯楽活劇になるんだからそりゃ1位ですわ。まあ死ぬ人はばっさり死ぬし血みどろになることも多数なバイオレンスもありますが、その程度チャンピオン読者なら空気を吸うようなものだよネ!(舌禍)
 ざっくりジャンル分けすれば「能力バトルもの」ですが、異彩を放つのは「主人公に特殊能力がない」ところ。秀才ではあるんですが、基本ひとタッチで死者が出るような能力バトルにはあまりに一般人。その彼が司令塔として味方の魔法少女の能力をうまく使って、敵を策に見事にハメるのが実に痛快。
 ことに面白いのが主人公が「読者より先回りして言い切っちゃう」ギミック。これすっごく伝わりづらいんですが、知略戦系のマンガでしばしば「わかっていないように見せかけて、終わってみたら全部演技でわかってた」という手法あるでしょ。その演技部分をすっとばすどころか、自分がわかってるからそれでいい前提でいきなり結論だけしゃべるんですよこの人。終わってみれば「あー!」とわかる、そのスピード感がヤバい。
 またこの主人公、こんな具合で知性派でけっこう身も蓋もないことズバズバ言うこともありますが基本たいへんよくできた子で、もとを正せば縁もゆかりもない魔法少女たちを命がけで救おうとしたり、そんなでかい話じゃなくても変に悪ぶったりせず素直な気配りができるえらい人。あとかなり美少年。読んでて気持ちのいいマンガですな。
 作者の過去作は『エルフェンリート』『ノノノノ』と、いわゆる「よく引用される部分」ではどうかした超展開や黒展開で有名ですが、案外それはショッキングなコマを抜き出しただけじゃないかなー。実はきちんと話の流れで見ると非常に健全で、がんばりは報われ周囲はいい連中でそれなりにいい目にあう一方悪い奴は何も手に入れられずひどい目にあう、しごくまっとうな娯楽作家だったりするんですよね。あと女の子がヘンにかわいいよ。ヘンではあります(そこは譲りがたかった)。
 本筋から脇道まで色々謎があったり込み入った事情があったりして1話単位で読むとピンときづらいかもしれませんが、単行本で通して1巻読むと非常にわかりやすいエンターテイメント。まだ3巻と読み始めやすい巻数なのでとりあえず1巻目だけ読んでみては。ヤングジャンプコミックスなのでチャンピオンコミックスと違ってどこの本屋にもけっこう置いてあるよ!

2位『超級!機動武闘伝Gガンダム 新宿・東方不敗! [STAGE2]』

 知らない人には幻覚を見ながら書いたように見えるタイトルかもしれませんが、アニメ『機動武闘伝Gガンダム』のコミカライズでかつ第二章にあたる通称「新宿編」の部分なのでこんなことになっているのです。
 『Gガンダム』! それは数あるガンダム作品の中でも見た人全員がこんなのガンダムじゃねえ、いや面白いけど、と思うことで有名な巨大ロボットによる格闘ガチバトルアニメでした。殴る! つかむ! なんやようわからんエネルギーがはじける! こんなのガンダムじゃねえ!
 そんなアニメをかの大熱血漫画家 島本和彦がマンガ化するのだからそれはもう殴るわつかむわはじけるわがいっそう汗臭い大ごとになっております。宮北和明によるMF(ロボ)絵も重量感と鉄くささたっぷり、時に拳で語る男の世界、時にがっくり脱力する頭の悪さの島本節が月産100ページ超の過激な仕事量でサクレツする!
 ……のが、マンガ『超級!機動武闘伝Gガンダム』のあらすじ(すじでもなんでもねえ)。で、ここからが第2位に推す理由なのですが、この『新宿・東方不敗!』編(タイトル変更による巻数リセットがかかるのでちょっとややこしいのですが、『新宿・東方不敗!』第1巻は実質的な『超級!機動武闘伝Gガンダム』第8巻です)になってからがとんでもない。
 1対1のガンダムファイトを描いていた話が突然、謎の敵部隊との籠城戦に切り替わってわけのわからないまま(本当にわからない)しかし熱気と勢いだけは凄いのでなんか読み進まってしまう第1巻。そこから驚きの急展開が始まるのですが、あの作者をもってしてもここまで、という全てにおいて大・過剰!な筆致が続くのです。
 烈しい、烈しすぎる戦い! 死を前にしてなおすずやかな覚悟! 命のすべてをかけた心意気! 今までの作者であればどこか「……というバカをやってるというギャグです」的なうーん言い方は悪いけど逃げ道?がどこかに、どこかに用意されてたんですが、原作にそんな逃げ道がないからか、あるいは作者のスパークがいま極限に達したか、大マジでこの熱血を描ききってしまう! しかもやりきったと思ったその次の回ではさらに上をいく熱気が!
 本当に読んでて物理的に汗が流れる凄まじい暴走。もうこんなの暴走ですわ。話のところどころではおなじみ脱力ギャグも混じるんですが、それでも熱気が失われることなく同時にギャグ自体にも笑っちゃえる不思議。
 『新宿・東方不敗!』から読み始めても大丈夫(わけがわからないのは最初から読み続けていてもいっしょだ!)なので、このマンガにおける迫力と熱気の極点、1〜4巻だけでも読んでみてはいかがでしょう。ここ以外のパートもちゃんと面白いけど!

3位『フダンシフル!』

フダンシフル!(1) (ヤングガンガンコミックス)
もりしげ
スクウェア・エニックス (2011-05-25)
 ついに昨年完結したシリーズ。個人的にはエバーグリーン・ベストな作品ですが、読者を選ぶところもあるし(Gガンダムのあとにおいてすら)直接の前編『フダンシズム』を読んでないとたぶん100%は楽しめないし、といって読み始めると『フダンシフル!』は3巻で完結という急展開だし、バランスを考えると3位まで下ろさざるをえない。個人的にはいつだって1位です。
 なんていうかオススメがすごく難しいマンガ。この作者のマンガは独特の「文法」とでも言うべきものがあって、ふつうのマンガを読む目線で読むと「え? 今のなに?」「この人はなにを考えているの?」「これどういう意味?」「話の流れおかしくない?」みたいな疑問でいっぱいになりかねない……それはあくまで文法の問題で、きちんと脳が正しく翻訳すれば楽しく読めるんですが、あいにくワンアンドオンリーな作家なので文法を学ぶにもケーススタディで憶えるしかないというのが悩ましいところ。
 個人的には同時進行で描かれた『学徒のベクトル』(全1巻)で作者のリズムをつかみつつ、「これヘンだけどなんか面白いわ」と思ったら『フダンシズム』に進むのが初心者にはおすすめのルートですが、たいがい気の長い話だなそれ!
 まして『フダンシズム』は最初のうちオタク文化と腐女子心をストーリー仕立てで学ぶ学習マンガ(なんだそれ)の性質が強く、これはこれで面白いとはいえキャラが動き出しストーリーが大きくうねり出す4巻あたりからが真骨頂という、ええい本当におすすめの難しいマンガだなもう!
 しかしそれでもこのマンガは素晴らしくキラキラと輝く青春を、誰よりも優しい視線で描いた傑作なのです!
 好きになった女の子と接点を持ったのがよりによって(とある事情でしかたなく)女装していた時、というタイミングの悪さが生んだ男と女(装)の二重生活。あの娘に少しでも近づきたいとオタク道に踏み込むも、オタクの道は生真面目すぎる素人には疑問まみれというカルチャーギャップ・コメディ。もともと人付き合いの苦手だった主人公が、女装でもう一つの人格を得ることで違った角度から人と知り合い、仲間とも言える友人を作っていく青春譚。二重生活のボロを必死で隠すスラップスティックな軽いサスペンス。
 登場人物はほぼ全員オタクで、おおむね全員間違ってる(本当に全員ろくでもなく間違ってる)んだけど、全員好きなもののために一生懸命でその瞬間瞬間を精一杯楽しんでいることもはっきりと肯定的に描かれているバランスも絶妙。オタク文化に無知な主人公が(この人たちはだめなのでは?)という疑問をもちつつ、好きな子のためというちょっと不純な動機でオタク活動を続けていくうちにその「価値」を自然に理解し、仲間と、好きな子と共有できるようになる。その様はとても美しく、そのいつか終わってしまうだろう日々が切なくも爽やかであるのです。
 『フダンシズム』全7巻と『フダンシフル!』全3巻で計10巻。初期は絵に独特のクセがあるのと、その上1コマ1コマの情報量が多いので急ぎ足で読むのはまったくおすすめしないし、もうホント難しいんですがあえて、ぜひ読んでほしいと言える作品。

つけたり

 難しー! 3つに絞るってすげー難し−!
 というわけですげー惜しいところで3つに入りきらなかったのをダイジェストでお送りします。
 まずエッジの効いたなんだかカオスな月刊誌「チャンピオンRED」(読んでない人に姉妹誌「チャンピオンREDいちご」とごっちゃにされることで有名)から3作。『真マジンガーZERO』は前回も書きましたが、オタクな原作元ネタ大好き視点と現代のマンガ演出表現の技巧、そしてどっちに注目せずともドカンとくる巨大ロボ魂、苦難を乗り越える男の戦い、英雄そして同士としてのスーパーロボットを描ききった、リメイクの域を超える傑作。
 ついこの間最終回を迎えた『昭島スーサイド☆クラブ』、まだエピソード1だけで終わっちゃった感あるわ! いまだに「昭島」をなんて読むか忘れがちなのがまずかったのだろうか。決して万能ではない高校生たちが町の自警団を組む(しかもリーダーは魔法少女きどり)というちょっと変でちょっと真面目な話ですが、純粋さがひどく切なく、一方で間違ったことにはっきりNOと言ってやるのが痛快な成長物語。知ってました? REDってこういう話も載るんですよ!
 2巻が出るかどうかは売上と人気のみぞ知る『死人の声をきくがよい』。諦観しきってやれやれ系にすらなれない人生に疲れっぱなしの美少年と、基本棒立ちで無表情で喋らなくてというかなにぶん幽霊な美少女という、話動かす気が見当たらねえ2人によるロマンス以前のロマンス! まあ血はしぶき内臓がはみで画面の7割ぐらいが斜線の陰影で埋まっているホラー・ショートストーリーなんですけど。でも本当に陰鬱でじめっとした雰囲気と、反して意外にカラッとした物語、そしてホラーなのにやたら萌える主人公とヒロインのキャラクター造形は素晴らしく、ホラーだからというだけで敬遠するには惜しい作品です。
 そしてこっからは「どうせみんな読んでるんでしょ?」部門! すごいよ、たしかにすごいけどさ、すごいってもうあちこちで言われてるから今さら言うまでもないよね。という、はいまず『進撃の巨人』。すごい! あいかわらずすごいんだからしょうがない! 全編緊張、絶望一歩手前が持続する中にもわずかに希望を見せる手管、皆いいキャラしてるしそれを僅かな描写で見せる技術に、衝撃につぐ衝撃の展開。ああ本当すごい。「絵が下手」という評価も多くきくけど、世の中にはデッサンやデフォルメやタッチやレンズ効果やカメラワークや記号化や演出技法といったものがあり、この場合は下手というよりは「選択された手法」であってそういう人が言う「上手い絵」で描いたら別のマンガになっちゃうと僕は思いますなー。
 『ハイスコアガール』! ついに押切蓮介本格ブレイク! そりゃ面白いもの女の子は可憐だもの主人公はボンクラだけどいい奴だもの丁寧なボーイ・ミーツ・ガールとして完璧だし「当時」のゲーム事情を知ってればノスタルジーまでついてくるわいいとこだらけですわ。押切先生のマンガはどれも素晴らしいのでもうみんな全部読めばいいじゃない! 『ミスミソウ』や『椿鬼』みたいな劇薬指定作もあるけど、傑作なのは一緒じゃ!
ハイスコアガール(1) (ビッグガンガンコミックススーパー)
押切 蓮介
スクウェア・エニックス (2012-02-25)
 『HUNTER×HUNTER』は、なんかもういまさら何をかいわんやですね。なんでこの人こんな無理していつも週刊少年ジャンプで描いてはるのやろ……と思うことはありますが、たぶんどこ行っても休載はするんじゃなかろか。
HUNTER×HUNTER 31 (ジャンプコミックス)
冨樫 義博
集英社 (2012-12-04)
 メジャー作のわりにそれほど「すごい!」の声は聞かないがいやこれ十分すぎるほどすごいっしょてのが『史上最強の弟子ケンイチ』。50巻の節目を迎えんとしている長寿連載なのに、決してマンネリにならず見せ場につぐ見せ場、泣かせ所と痛快な一撃。常にエンターテイメントとして高水準を保っているどころか、より高みに進むいきおい。大人の厳しさと優しさ、頼れるところをきちっと描ける少年マンガも最近は貴重ですよ。
 逆に比較的マイナー作だけど知ってる人にはもう話題沸騰の『風雲児たち 幕末編』。ここ最近の盛り上がりはどうだ! もとより歴史ギャグと本格歴史ものの交錯する作品ではありましたが、ここにいたり今まで誰も描けなかった「迫真のノンフィクションとしての桜田門外の変」! もう20巻と21巻だけでも読むべきじゃね? という無茶を思ってしまう展開。いや本当に。
風雲児たち 幕末編 20 (SPコミックス)
みなもと 太郎
リイド社 (2012-04-26)

続いては2012年に新創刊された週チャンのフレッシュ姉妹誌、「別冊少年チャンピオン」からBEST3!

②別冊少年チャンピオン部門

対象:2012年創刊号〜2013年1月号までに別冊少年チャンピオン本誌に掲載されたマンガ作品から上位3位まで

第1位『サンセットローズ』

 「あの」がつく傑作『フルアヘッド! ココ』の正統続編とくれば読まずにおれないというものですが、厳密には「アナザーストーリー」だそうで実際これ『ココ』とはかなりスタイルが違っていて続編としてより単一作として評価すべきでしょうか。現時点で実際『ココ』との繋がりは世界観とごくちょっとのアレだけだしね。
 『ココ』のことはいったん忘れてこのマンガ、何しろ男がカッコいい。主人公チェリー・ブラッサムが血気盛んなだけの若造と見せかけて、その実腕が立つ! 心が強い! やるべき時にやるべき事をやってくれる! まさに英雄の資質アリの大器。
 月刊誌連載ということで1話あたりのページ数が多いおかげもあってか、このヒロイックさをきっちり時間をかけつつ1話完結で魅せる尺のとり方も職人的で、「完成度の高さパネエ」というのがこのマンガのいちばん適切な形容でしょうか。思えば『ココ』以降も作者にはいろんな連載があり、中には正直なんであんなことになったのかわかんなかったものもあり、打ち切りの憂き目にあった作品もけっこうあり、でもまあ傑作ももちろんあるし一度した失敗の二の轍はふまず常に現役を貫いている、そんな中で培われた漫画力がいま『サンセットローズ』という形で現われているんじゃないでしょうか。現在1巻。

第2位『みつどもえ』

 週刊チャンピオンで短期集中連載という名の試用期間を経てようやくの連載開始、そこから徐々にファンを増やし遂には夢のアニメ化、しかも2期、そんな絶頂期に突然の長期休載。何があったのかはわからないがとにかく往時のパワーそのままに電撃復帰、そして別冊チャンピオンの目玉連載として電撃移籍という、読者にとって実にドラマチックな変遷を経た『みつどもえ』。
 月刊誌に移行して2本立て体制になったのが意外に重要というか、読者として読むリズムが変わったのがいちばん大きな変化でしょうか。個人的には週刊時代にはなかった満腹感があり、本の柱のひとつとして支えてる感があって大いにアリ。
 2本立ての満腹感ってもカラー扉抜き本文16ページではありますが、このマンガの場合1ページに何種類も笑いがギッチギチに詰まっているのでボリュームは十分。キャラの立った群像劇として話の主軸の横で1コマストーリーが展開してたり、キャラ同士の関係性が生む展開のドミノ倒しがラストで1コマ目に戻ってきたりする実によく練られた脚本。アニメの番宣だけ見て「よくわからないが日常系萌えぷに系かしら」と思ってる人にこそ読んでほしい、そして日常系という言葉が似合わないにもほどのあるテンションで巻き起こるあってはならない事件の数々に衝撃を受けてほしい。でもまあ移籍前の約12巻分たまったキャラ相関図の蓄積あっての今でもあるので、新創刊誌の柱として新規読者の目に実際のとこどう映るのか、ちょっと心配でもありつつ興味のひかれるところですよな。

第3位『ブラック・ジャック創作㊙話 〜手塚治虫の仕事場から〜』

 思い起こしてみたらこれ「週刊少年チャンピオン創刊40周年記念」の企画モノ短編シリーズだったはずが、いつのまにやら好評が好評を呼んでアンコール連載に、そして別冊チャンピオンの目玉連載、不動のアンカーに。世の中わからないもんですね。
 「神様ってこんなに一緒に仕事したくない存在だったの……」と思わされてしまう「漫画の神様」手塚治虫の悪夢的ワーカホリックとわがままぶりというか、もう神様でもなんでもなくない?という「偉人伝」ではありえない身も蓋もないエピソードの数々。
 これ仕事が神のごとくできてなかったらただのダメ人間だ! あっ、できてるのか! そして人間的になんかいい人。大げさな美談はないけど、というか悪気のないままヒドいことしたりもしてるけど、それでもやっぱいい人だったんだろうな、どんなキツい職場でもこの人の笑顔があるとちょっとがんばれるのかもな、と思わせる感じ……あっ、それってヤクザの手口やないか!
 ……うん、まあそういういい話困った話とりまぜて、情熱の筆致で最終的にやっぱすげえ! 手塚先生すげえよ! としびれるように描いちゃうあたりが脚本・作画ペアの見事な技巧。本当にこの人の絵で描かれる「手塚治虫のくったくのない笑顔」ずるいと思います。
 かつては短編シリーズを急に連載化してネタ切れしないの? という心配もありましたが、タイトルの「ブラック・ジャック創作秘話」から脱線して秋田書店すらかかわりのない実録・手塚治虫物語へと展開してきてるのでその点も心配無用。瓢箪からコマ的ですが、別冊チャンピオンはいい連載を持ったよね。現在2巻。

つけたり

 って、並べてみたら続編・移籍・連載版とフレッシュさの足りないラインナップになってしまった! まずい、別冊チャンピオンの魅力にいまいちふれてない!
 別チャン、この他に『バキ外伝 創面』『バキどもえ』『クローズZEROII』『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話外伝』『別冊 木曜日のフルット』と週チャン好評作の外伝・続編がやけに多く、まあ別冊誌というのはそういうものではあるのでしょうが、しかしここでしか読めない連載もかなりの充実度。
 魔法少女ものの極北と話題の『魔法少女・オブ・ジ・エンド』。ひとことで言えば魔法少女・ミーツ・ゾンビという飛び道具ですが、第1話の衝撃「まじかるー」な異形と閉塞感には心ふるわされたもの。
 『空が灰色だから』で一躍有名になった阿部共実のライトサイド『ブラックギャラクシー6』。ほのぼの漫才マンガでも力を発揮する作者のグダグダ青春コメディーが読めるのは主に別冊チャンピオンだけ!
 タイトルからは何のマンガかよくわからない『ハダカノタイヨウ』は実は漫研もの。漫画描いてるとか友達に噂とかされると恥ずかしいし……というオタクならずともなんかわかる気恥ずかしさを持った主人公が、完全プロ志向のクラスメート(つよい眼鏡っ娘)に引きずられてマンガに踏み込んでいく物語。自分に厳しい上昇志向で一直線にプロを目指す姉崎さん(つよい眼鏡っ娘)の頼もしさが主軸ですが、ノンプロ志向や、立派なアティテュードはないけどマンガ好きな気持ちに嘘はない主人公、様々なまんが道に平等に光が当たっているのもいいですね。
 「ある日突然教室の中の誰を見殺しにするか、選択を強制されたら……?」 『少年Y』はそんなソリッドなシチュエーションスリラー。選択を迫るのがジグソウ的なアレじゃなくちょっとちょろそうな神様少女というあたりも親しみやすくていいと思います。チョチョイのチョイス!(←僕の頭が唐突におかしくなったわけではありません)
 『サクラサクラ』は別ワクで書きましたが『フダンシフル!』作者もりしげ先生の新作として見逃せない。少子化が進みすぎた近未来、残り数名となった世代の少年少女3人のディストピアを描くこれまたクセの強い作品。この人そんなんばっかりか! まあ、そうだよね! 背景には不穏な大人の理論も見え隠れするのですが、その中で疾走する思春期が強靱で面白く、先の気になる作品ですな。
 『眠らないでタエちゃん』、居眠り体質の少女の睡魔との戦いを描くショートショートですが、毎回シチュエーションに工夫があって理に落ちる技巧派。眠りたいけど眠れない苦悶の表情が必要以上にエロティックなのもバカバカしくも通には見逃せないところでしょうか(何の通だ)。
 バカといえば『しこたま』そして『サイケデリック寿』! 『しこたま』は甲子園に挑む女子高生という正しいテーマを、むだなお色気と間違ったキャスティング、完全におかしい理論が台なしにする! 主人公はすぐ脱ぐ(養成ギプス的なものを、しかし結局服とともに脱ぐ)ピッチャー、女房役は女相撲出身のキャッチャーだ! そして『サイケデリック寿』は週チャン本誌で『金縛っておくれよベイベー』『キザクラショウ』等の短編連作でおなじみ西森茂政先生によるナンセンスショートギャグ。説明することを左脳が拒否するVERYハードモードなナンセンスっぷりはますます軒昂で、もう読んで一緒に左脳のはたらきを停止させるしかない!

2012年の週チャンからBEST5、「週刊少年チャンピオン部門」! はっきり言うけどこれ以外のどれを読んでも面白いぞ!(企画意図が否定されかねない)

③週刊少年チャンピオン部門

対象:2012年に単行本が刊行された「週刊少年チャンピオン連載」のマンガ作品 及び、週刊少年チャンピオン本誌2012年NO.1〜NO.53に掲載された読み切り・短期連載を含む全作品から上位5位まで

1位『バーサスアース』

バーサスアース 1 (少年チャンピオン・コミックス)
一智 和智 渡辺 義彦
秋田書店 (2012-12-07)
 いま週チャンで、バーサスアースが一番熱い! と言い切ると「そこまで言っていいのか……?」とさすがに及び腰になってしまう充実の誌面ですが、週チャン俺デミー賞をどれか1作に捧げるならやはり『バーサスアース』。
 僕はこのマンガをことあるごとに「中二の見た夢」「厨二魂を刺激するマンガ」「とことん中二ソウルに響く」など形容していてなんか無自覚にネガティブキャンペーンを張ってるのではないかと反省しますが、それほどこの作品は少年心を熱く燃え上がらせるのです。
 地球がいま、人間達に牙をむく。というテーマは実はどうでもよくて、その牙のむき方が地中から発生した「深柱しんちゅう」で使うは「マントル熱線」! 対抗する組織の開発した武装は「十式対熱多層防護盾ヤタノカガミ」「十一式対甲破壊槌ヤサカノマガタマ」「深柱髄幹裂断刀クサナギノツルギ」!!
 (※ここからしばらく読みとばして大丈夫です)十式対熱多層防護盾ヤタノカガミは256枚の強化対熱セラミック防護パネルが放射状かつ(間に吸熱ジェルをサンドイッチしながら)多層状に積載され、マントル熱線に対して表面から順に使い捨ての装甲となるのだ!! 十一式対甲破壊槌ヤサカノマガタマは巨大ハンマーの打突部がリボルバー式のパイルバンカーとなっており、激突→弾丸発射で接着面にゼロ距離打撃という二段階攻撃が可能である!! 深柱髄幹裂断刀クサナギノツルギは脚部装甲に据え付けられた固定武装で、「抜刀」動作で足先より深く突き出し、これを目標に蹴り込む形で刺突、「射出」してパージと同時に目標に突き入れ固定される! この状態の裂断刀ツルギ破壊槌マガタマで打撃することで目標の中心部に届かせ破壊せしめるのである!!! のである!!!!
 オペレーターの指示とそれを復唱しながらの戦い! 主人公は一般人の高校生だったが、偶然とやむを得ない事情と奮い起こした勇気によって貴重かつ未知数の戦力となる!
 人にはやらねばならない時と、燃えずにおれない中二設定があるのだ。決して男の中の男とはいえない主人公がいいところで覚悟を決め、頼りになる周囲がそれを助ける筋立ても絶妙。レオさんことおっぱいこと作品世界一目つきの鋭い女性戦闘員「玲央」の周囲の男性を次々とヒロイン化させる姐さんっぷりおよび普段時のポンコツぶりも注目せざるをえない。あと原作者公認かわいいこと一般人ヒロイン「カナ」があんまり健気でかわいく描かれているのでいつ殺されて主人公が精神的に成長するきっかけになるのか心配でしかたないです。現在1巻。

2位『囚人リク』

 これ週チャン連載作としては比較的知名度がある気がする。絵が上手い! 描写がシビれる! 男と男の絆が泣かせる! ダメージ描写に容赦がない! 驚きがあり、ドラマがある、いま一番熱い囚人もの。(囚人ものってそんなに言うほどあるか? という疑問はないでもないです。『AREA D』とか囚人ものに入るんだろうか?)
 一時期、囚人間のシマの取り合い、トップ争いが続いて「おもしろくはあるけど、これは初期の脱獄ストーリーからの路線変更なのでは?」と疑問を感じる時期もありましたが、それまでで得た仲間とツテで本格的に脱獄を計画し始めてからが特にアツい。
 看守と警備の隙をつく頭脳戦ととっさの機転、仲間をどこまで信じて命を預けられるかの壁、計画通りに進まないハプニングに襲いかかる絶体絶命の危機! 決してバトってるわけではありませんが「計画バレ=おわり」の監獄島ではこれこそが命をかけたバトル。そして努力と友情と勝利がある、意外にまっとうな少年マンガ性。華やかさや派手さには欠ける地味めで男臭い設定ですが、少年マンガが問題なく読めるなら(要するにひろくマンガ好きなら)読んでいいのでは? 現在9巻。

3位『ハンザスカイ』

 終わっちゃったかー! いやすごくキリのいい所、そしてキレイな終わり方だったのでいわゆる打ち切りエンド感は少ないんだけど、やっぱ明らかに先をもっと見越してたよなー! こういうのすごく複雑な気分ですけど、週チャンはこういう時きちんと幕引きの時間を用意してくれていると感じることが多く(本当のとこは一読者にはわかりかねますが)、現実的にはいいことだと思う。
 で、ハンザスカイ。負け知らずの不良少年が空手部の「クソ女」に手も足も出ず負けてしまったことから始まる恋、そして空手道。主人公「半座」は直情で裏表のない好男子ではありますが、仲間も友達も礼節も知らなかった無頼漢。今まで出会うことのなかったそれらに触れて、人間的に成長していく──というよりも、半座の目に映る世界が少しずつ拓けて輝きを増していく様子が彼自身の目線から描かれていて、とても爽やかで気持ちいいのですね。
 サブキャラクターたちも魅力的で、「団体戦の主役以外」も読み応え十分。どこかで曲がってしまったりうまくいかなかったりねじれてしまったりしたものが空手を通して消化され昇華されていくところも押しつけがましくなく、素直にキャラ全員を応援できるように描かれてます。
 キレイな終わり方には間違いないのでオススメしやすい全13巻。

4位『さくらDISCORD』

 これも終わっちゃったかー! といっても、この作品の場合「長編」と言うには短いながらも用意されたテーマをちょうど全部描ききったようにも見え、円満完結と言っていいのでは? あいかわらず一読者にはわかりかねるとこですが。
 この作品でみごとに消化されきったテーマ、それは友情、恋、すなわち青春! いまどき? そう、いまどき誰もが避けたがる剛速球ストレートをブン投げてきたのです、このマンガは! しかもチャンピオンなのに! いやむしろチャンピオンだからできたド直球の蛮勇なのかもしれません。
 作者は何を描いてもドラマチックになるという不可思議な能力をもつ俊英、増田英二。要は球技大会のメンバー集めじゃろ? みたいな話(本当)がまるで世界の存亡をかけた戦いの序章かのように描かれる(本当)マジックが炸裂しています。しかし考えてみたら青春時代とは、本人たちにとって世界で一番大事なことは目の前のことだったりするもの。これがいちばん正しい表現だとは本気で思います。
 挫折、仲違い、家庭の事情、諦めきれない目標、告白、全部主人公たちにとっては最重要事項であり、全身全霊をこめてブチ当たるのです。こうして文字に書けば過剰でひと昔前のさすがにちょっとフワフワしすぎな青春マンガがイメージされるかもしれませんが、そこは今風。いわゆるバトル物的な「熱い」ドラマチックな展開と演出で、熱気にあてられて気恥ずかしさの吹っ飛ぶ痛快さで迎えてくれます。
 今週から新連載が始まるのも楽しみな作家の前作、揃えやすい全5巻。なぜかAmazonで3巻だけは最初の数ページが読めるのでちょっと見てみるのもいいのでは。

5位『ハーベストマーチ』

 学園怪奇妖怪討伐アクション『ケルベロス』がやりきったといえばやりきった、打ち切りといえば打ち切りもいいとこな終わり方をしてしまったのがいまだ哀しい今日この頃ですが、その作者の新作ファンタジーとあれば注目せずにはいられない。
 で、思ったんですけど、この作者……好きにやらせたときが一番おもしろい。じゃあ『ケルベロス』が好きにやってなかったのかと言えばNOですが、さらに上を行こうとしてるのがわかるエッジの効かせ方。普通少年誌で主人公の姉があんなおねショタカップル感を出したりしないし、ましてそんな犯罪的な組み合わせで二人旅に出て新婚旅行感や初夜感をかもし出したりしない。(ひどい)
 えっと……あ、これ気弱な少年がある日「天使」に世界の憎しみを背負わされて、異形の力を持つものの自分の世界を守るために戦うという、非常にまっとうかつダークなプロットの話ではあるんですけど。
 読者の予想をはるかに飛び越えた「お前は天才か!」と言わずにおれない新しすぎる表現(テテテテテ)、しかしたしかに正解、予想される正解例とまったく違うとこにあるけど正解としか言いようのない作者が好きにやった表現がここにはある。さっきも書いた諸悪の根源である「天使」がほのぼのとハートマークをぷわぷわ出してナレーションしてたり、普通はナシな表現だけどそれをやっちゃうしそれがアリになるのだからおそろしいぜ。
 と、ここまでまるきり上級者向けのような書き方をしておいてなんですが、容赦なくサブキャラが凄惨に死んじゃい、人の身勝手さが別の誰かを傷つける残酷さ、その一方残酷な世界の中で時に小さく時にたしかに保ち続けられる健全さがこのマンガにはあって、残酷さにふれるだけでもうムリっていうことさえなければ誰もが読んでいい内容だと思います。現在単行本は第1巻が3月発売予定。

ラスト! 2012年の週チャンのキャラからBEST3を決めろ! 「チャンピオンキャラクター部門」!

④チャンピオンキャラクター部門

対象:2012年に単行本が刊行された「週刊少年チャンピオン連載」のマンガ作品 及び、週刊少年チャンピオン本誌2012年NO.1〜NO.53に掲載された読み切り・短期連載を含む全作品

1位『さくらDISCORD』より、住吉さくら

 通称「住吉」「ヨッシー」「スミ」、『さくらDISCORD』のツッコミ役、なんか不幸の星の下に生まれた感強いこと住吉さくらが1位であります! えらく趣味の出たチョイスであることは一切否定しない。常時鋭い目つき! トラッドな(制服の)着こなし!
 ここからはややネタバレ気味になりますが、寡黙無愛想で人をゴミ虫のようにさげすんだ目で見下ろすことに定評のあった住吉さんですが、その実まじめないい子でした(かなりはしょった)。
 バトル漫画でたとえると(『さくらDISCORD』は青春漫画ですが、バトルでたとえやすいマンガなのでこれはしかたないことなのです)一度敗北し自分を取り戻した住吉が後に主人公パーティーの危機に立ち上がり共に戦うことを誓う、あのシーンの凛々しさときたらどうでしょう。その後「あ、この子、他人と関わろうとしないから見えなかっただけで人と多く関わるとかなりのポンコツっぽいわ」と判明するのもフフフ、ご愛敬っていうんですかね。
 ビジュアル的に凜として可憐、話の最初から最後まで主要人物として関わり、その臨終も南斗水鳥拳のレイのごとくすずやかだった(←あくまでもバトル比喩です)住吉さくらは2012年前半のチャンピオンを華やかに飾ったと思います。

2位『ブラック・ジャック 〜青き未来〜』より、ブラック・ジャック

 「中山昌亮の絵で描かれる壮年のブラック・ジャック」! それだけでもう反則じゃないでしょうか。
 作品『ブラック・ジャック 〜青き未来〜』はシナリオが『ヒストリエ』『寄生獣』の岩明均、作画が『不安の種』『オフィス北極星』の中山昌亮という大実力派タッグで「数十年後のブラック・ジャックを描く」という話題性満点の夢の連載でした。
 で、いざフタを開けてみるとたびたび休載するし載っても話が進まないしで、この2人話も絵も丁寧すぎて週刊マンガのペースにまったく合ってないと判明し、あげく単行本ではいかにもわけあり気味に脚本クレジットが「シナリオ原案:山石日月」に変わっているという、まあ、あんまり誰も得をしなかった作品でしたが、連載ペースを忘れて単行本(全1巻)でまとめて読むと非常によく練られた大作だと思うんですよね。
 ここで描かれたブラック・ジャック(壮年)、考えたら原作のブラック・ジャックってわりと短気だったよな(たぶん1話完結で話を早く動かすのに必要な機能だったんでしょうけど)と思い起こすとぐっと落ち着いた大人のしぶみ。トシはとってもいい男、年輪が生む余裕がさらにかっちょ良く、ブラック・ジャックのありえる未来像として、読者の目から見て理想の大人像として、たいへん魅力的でした。

3位『りびんぐでっど!』より、灰田もなこ

 ゾンビがヒロイン! それはまだしも、ものすごい気軽に首がとれたり左右に割れたりするヒロイン!(臓器なども比較的よく見えます)
 さすが人外ヒロインへのアグレッシブさに定評のあるチャンピオンですが、しかもちょいラブコメだというから驚く。なにぶん体の接合がゆるくしばしば肉食の本能に支配され野鳥にさらわれやすいヒロインなので(ヒロインの条件としてだいぶ下のランクに位置すると思う)ラブらないコメディ回も多かったですが、それでも話の起点になり事態を引っかき回すキャラでありながら悪気もイヤ味もなく、人の良いかわいらしい立派なヒロインでした。
 ちなみに僕は「もののふ口調とかの意味じゃなく、むしろ昭和の文豪みたいな物々しいボキャブラリーがいつもじゃなく話しことばの中に唐突に飛び出す女の子萌え」という「萌え属性」のひとことで区切るには限界を感じる嗜好のもちぬしなのですが、その点でも素晴らしいヒロインでした。問題は彼女以外もこのマンガに登場する女子はたいていそうだった(作風)ことですが。



 さあ、キミのお気に入りの作品やキャラクターはランクインしたかな?(わりとどうでもよさそう)
 2013年もチャンピオンにとって雄飛の年……というか、悲しいことのない年であるといいですね(チャンピオン読者特有のネガティブ思考)。

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