補記
ここまでの日記でいくつか書きもらしていたことがあったので、手遅れにならないうちに書いておこう。
それはゲームのやや具体的な進行に関する問題であり、敏感な人にとってはネタバレの範疇に入るかもしれないので一応気をつけてほしい。こんな古いゲームでネタバレもなにもない気はするが、念のためというやつだ。
薔薇の名前
ゲームを始めると、早々に主人公の名前を聞かれた。RPGとかでよくある、「そういえばまだキミの名前を聞いていなかったな」「オレか? オレの名前は……」(入力画面)というやつだ。それのレベルを数段低くした感じのやつだ。
漢字アリ(ただしプレステレベル)で姓4文字・名4文字。さて、どうしたものだろうか。
こういう時には本名プレーが正しいのだろうか。ギャルゲー的には。たしかに自分の本名を入れれば確実に感情移入度も上がるというものだろう。しかし同時に「オレはこんなセリフを吐いたりはしない!」と一気に醒める可能性もある諸刃の剣。だいいち僕はゲームを第三者視点で遊ぶタイプの人間で、主人公に自分を投影することはめったにない。ゲームの主人公は小説とかの主人公と同様、架空の存在としてクールに遊ぶのが僕のやりかただ。そういうのがクールなのかどうかは別として。
別のパターンとしては、マンガのキャラクターや実在の人物の名前を流用するというやり方もあるが、それはそれで何か違う気がする。そのキャラ名にひきずられて主人公のキャラクターも(脳内で)固まってしまい、「このキャラはこんなセリフを吐いたりはしない!」となる危険もはらんでいる。キャラがハマればそれで何の問題もないんだろうが、いまこの時点では主人公がどんなキャラなのかつかめていないのだ。仮に1度エンディングまで行ってからもう1周やり直すことがあるとすれば、主人公の性格と合ったキャラクターを探すことも可能なのだろうが。うん、今度やってみよう。
それはそれとして命名だ。ここでいわゆる「適当な名前」をつけるという方法もあるだろう。たとえば「勇者 くそむし」とかだ。姓は勇者、名はくそむし。人呼んで勇者くそむしと発します。こんな脳のシナプスを最短経路で猛進してきたような命名も、それはそれでたしかにひとつの手だろう。恋仲のヒロインに糞虫呼ばわりされるだけでなんか面白そうだし(けっこう安い笑いのツボ)。だがしかし待て。ここは安易に笑いを取りにいくべきではない。たぶん制作者側としてはそういう安易なおもしろを提供するために命名機能をつけたのではあるまい。それは映画で言えば安易な客寄せのために監督の意図に反したシーンをプロデューサーがつけ足すがごとき所業ではないのか。そうではないと言われれば、まあたしかにそうではありませんが、それでも僕はあくまでこだわっておきたい。
となると架空の名前、かつギャルゲーの主人公として恥ずかしくない語感が重要となる。しかしよく考えると僕はギャルゲーを遊んだことがなく、どういう名前がギャルゲーの主人公として違和感なくイケるのかよくわからないのだ。
ここはひとつ説明書の限られた情報から考えてみよう。たとえば主人公の友人(男)の名は「杉江 範宣(のりあき)」とある。女性キャラだと「神原 のどか」「青野 静果(しずか)」「加賀谷 忍(しのぶ)」等々。どうやら「ちょっと珍しいというレベルで一般的な名前」ラインにあることがわかる。つまり「氷幻嵩人
(*1)」とかは確実にないわけだ。だいたいどう読むのかもわからないし、氷幻。あるとするなら「松江名 俊」とか「畑 健二郎」とか「皆川 亮二」とかだろうか。手元にあった少年サンデーから適当に作者名を出してみましたが。こういうノリで命名すれば、おそらくゲームを正しく普通に楽しめるはず……いや、だが待て!
そこにはオリジナリティを入れる余地が少なすぎはしないか。そこらの電話帳から探してきたような名前ではたしていいのか。頭をひねって考えた名前……それでこそ感情移入できるってもんじゃないのかい? だいいち僕は人名覚えるのが苦手だから、普通の名前つけたら遊んでてもすぐ忘れちゃいそうだしな!(本音)
というわけでいささかの遊び心を付け加えることにする。名前に。具体的には自分が付けた名前だと見た瞬間に思い出せるくらいに。だいいちこれは『キャプテン・ラヴ』などというアレなゲームだし、多少の脱線なら許されるんじゃないのか。
僕がめざすのは、基本的には人名として許容される範囲内で、しかし総体として微妙に間違っちゃっている名前だ。たとえば……そう、いい大人なのにゲームキャラの命名ひとつでこれだけ苦悩する僕にあやかって「ボンクラ」というキーワードはどうだろう。「盆倉(姓)」。いやだめだそれは単なるダジャレじゃないか。それはさすがに遊んでて最初の1分間だけは楽しくても、後々自分のセンスがイヤになって遊びたくなくなってしまう危険がある。
ボンクラが駄目なら、クズはどうだろう。といって「屑(くず)」という漢字では名前としてかなりどうかしているので、「葛(くず)」にする。それなら名字としてありうる話だ。「葛」単体では語呂が悪いので、もう1字ほしい。クズ……鉄クズ……それだ!(それか?) 主人公の名字は「鉄葛(てつくず)」としよう。まあ、現実に僕の名字がそれだったとしたら速攻で家庭裁判所におもむきますが、しかしこれはゲームだ。人生という名のな!(かっこよく言ってみた)
名字が鉄クズとくれば、名前はもう流れで決まってくる。「鉄葛 兵樹(てつくず・へいき)」それが今日から貴様の名だ! ※こういうセンスがボンクラ
どうにか名前は決まった。名前ひとつ決めるだけでこの騒ぎか。まだまだ僕はギャルゲー初心者ということか(おそらく関係はない)。そして遊んでみて思ったが、「鉄葛(てつくず)」よりも「葛鉄(くずてつ)」の方が名字っぽくて通りもよかったなあ。←早くも後悔
*1 氷幻 嵩人
チャンピオンに連載していたマンガ『かりんと。』の原作者で、客観的に言ってこの人がいない方がこのマンガは面白くなっていたろうと思う。
愛とは戦って手に入れるもの(←借り物の表現)
この日記中でも何度か登場している言葉、「論撃バトル」。この説明を忘れていた。
論撃について語るにはまず、ラブラブ党について説明しておかねばなるまい。
ラブラブ党、それはカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスによって提唱されたプロレタリアートによるブルジョア的生産関係の変革と階級差別の廃止を旗印とした「愛の共産主義」を実現せんとする組織である(この文章の前半は必要なかった上に、ねつ造)。
今日まであらゆる社会の歴史は恋人同士とモテない人々との闘争の歴史であり、万国のモテない人々が団結して社会に革命を起こさんとする、えーと書いててもよくわかりませんが、つまり「愛の共産化」である。1対1でイチャつくのは悪であり、そんな恋愛とかうわついたことをくっちゃべるのではなく万民に平等に愛を!というのがスローガンである。 わかったようなわからないような趣旨だがゲーム中でもそんな感じなので気にしないように。
そんなわけで彼らラブラブ党は日夜、街中のカップルをつかまえてはコンコンと恋愛主義思想の危険を啓蒙し、簡単に言って別れさせたりするのだった。悪の組織なのである。
主人公もかつてはラブラブ党の一員だったが、ヒロインと出会い人を愛することの素晴らしさを知った彼は党を裏切り、キャプテン・ラヴとして恋愛の尊さを逆にラブラブ党員に教え込むのだ! そんな話なのだ!
この互いの思想をぶつけあういわば啓蒙合戦、それこそが「論撃バトル」システムなのである。
敵ラブラブ党員が攻めてくるセリフに対して、制限時間内に有効なセリフを選んで切り返すのが主な流れ。うまくヘコませるようなセリフを吐けば相手にダメージ、逆にセリフ選択に失敗すると反論されて自分にダメージ。そんなシステムである。
白状すると、僕は最初このシステムにどうしてもなじめなかった。
相手の言ってることがそもそもムチャなので、的確な反論のためには相手の言ってることをまず理解しなければいけない。するとどうしても態度が受け身になってしまうのだ。それではダメージを受ける一方で、なんだかわからないうちにゲームオーバーになったりするのである。
「コラー! 公道でイチャイチャと見苦しいぞ!(中略)どうして2人だけの世界を作ろうとする!」とくる相手にこちらの選択肢は4つ。
「(殴りかかる)」
「イチャイチャしてたら悪いのか?」
「オレのどこが見苦しいんだ?」
「2人だけの世界は大事だろ!」 である。
普通に考えて「殴りかかる」はまあ無しとして、理屈から言ってイチャイチャすること自体は罪でもあるまいし、見苦しいというのは相手の主観であるから、敵の足下をすくうには「イチャイチャしてたら悪いのか?」「オレのどこが見苦しいんだ?」あたりではないかと選択すると……
「迷惑も迷惑、大迷惑だ! だいたいだな……(後略)」とか「今からジックリ教えてやる、そもそもだな……(後略)」とか調子づかせてしまうのである。ここでの正解は最後の選択肢、「2人だけの世界は大事だろ!」で、それ言うと「な、なんだと……そりゃオレはモテない、でも仕方ないんだ!(後略)」てな具合で相手をしおれさせられるのだが、なんだかスッキリしない。
会話がうまく噛み合っていないじゃないか。だいたい「2人だけの世界は大事だろ!」というその無根拠な自信はどこから来るのか。むしろこれでは相手に足下をすくわれてしまうのではないか。
という感じで、出すカード出すカード全部裏目という感じで何度もトライしないと勝てないのだった。無限コンティニューできるからキツくはないが、どうもゲームの流れにさっぱり乗れていない。なにかが間違っているのだ。ボタンを掛け違えているのだ。運命の歯車に押し潰されているのだ。なにかヒントはないものか。
ふと何気なくプレステの隣の本棚に目をやると、そこに島本和彦
(*2)の『吼えろペン』があった。
そ、そうか、これだ!
島本マンガの基本は筋が通っているけど根拠はわりとあいまいな勢いまかせの主張を迫力で押し通すところにある。そして島本マンガの主人公なら、きっとあの4択でこう叫ぶだろう。「いや、2人だけの世界は大事だ!!」
(ああ、せ、先生がまた無理な極論を……)
「よく聞け! たとえ見苦しかろうと他人の迷惑だろうと、かけがえのない女に愛を伝えないでどうする!
「そのためなら、おれは見苦しくてもかまわん!!」
そう、これはディベートではない。論撃バトルなのだ。たとえ根拠がなかろうと、というか愛などという科学的根拠のないものに拠って立つ主人公は全力をもって相手の言い分を却下し、自分の無理を通すべきなのである。
このことに気付いた後はもう早かった。ビシビシと自分の主張を押し通し無理を通して道理を引っ込めていく。いいぞ、気分いい! 島本マンガの主人公になった気分だ!
……ふつうギャルゲーやってて島本マンガ気分を味わうものなのだろうか。
*1 島本和彦
熱血マンガ家。代表作『逆境ナイン』『吼えろペン』等。
ボイス
ヒロインの声をなんのタイアップなんだか遠藤久美子(当時アイドル)があてているのは前に書きましたが、あまりにもアレなので早々にオプションメニューでOFFにしました。以後この日記に声についての記述は出てこないでしょう。
……ギャルゲーなのになあ。