2005.09.17(マンガ・アニメの話より)
ブラック・ジャックまつり
ヤングチャンピオン増刊号『ブラック・ジャック スペシャル』遅ればせながら購入いたしました。いやあコンビニ版コミックスばりの安っすい装丁と、これどこのコロコロコミック?的な分厚さ(634ページ)に一時はどうしようかと思ったけど、あいかわらず面白いわーこのシリーズ(*1)。
簡単にいえばヤンチャンの連載企画『ブラック・ジャック ALIVE』と月刊サスペリアミステリーの連載企画『ブラック・ジャック M』の単行本的存在のこのシリーズ。いろんな作家が好き勝手に自己流ブラック・ジャックを描く『ALIVE』と、いろんな作家が過去のBJのエピソードをミステリー風にリメイクする『M』。まあ要するにブラック・ジャックまつりですわ(東映まんがまつり的表現)。
えらくていねいに手塚フォーマットを踏襲した手塚LOVEなマンガから、手塚BJではこんな話絶対ありえねえっていうマンガ、はては自分のマンガのキャラと共演させるっていうなんつうかプロだから許されるし面白いからいいけど基本的にはそれ反則だよねっていうマンガまで色々あってもう最高。
ページを開けばのっけから手塚(息子)こと手塚眞によるこんな不健康そうなBJ見たことねえ!っていう感じの怪奇コミックに始まり、その次は柴田昌弘が描いた『赤い牙』シリーズのランとBJが共演っていうかむしろこれ主人公ランじゃねえかという話。さらに『釣りバカ日誌』の北見けんいち作画という気の狂ったキャスティングの作品が始まるに至り、もう読んでて脳汁とか出まくる。
しかしこの北見けんいち版BJ、ものすごく素な北見けんいち的ほのぼの都会と田舎とちょいとしたペーソス世界観で構成されてるにもかかわらずちゃんとBJ話として成立してるのはさすがベテランの貫録。さらにきくち正太(『おせん』とか)版BJに至ってはあの独特の絵柄はもちろん作者のお江戸趣味が炸裂してBJがなぜか着物を着ている始末。でもちゃんと最後にはぐっと来させるのがこの作者のちくしょう粋なところだ。
あの『ななか6/17』絵柄のままでBJを描く八神健、400年後の宇宙ステーションでBJがクローン再生されるというトンデモ作品を描く乾良彦、原作の「猫神家の人々」のリメイクだけど到底そうは見えねー!という相変わらずすごいイヤな絵柄の御茶漬海苔、ああもう何このキラ星のようと言うにはちょっと違う気もするけどキラ星のようなラインナップ。
いま気が付いたけど、この企画って『バットマン:ブラック・アンド・ホワイト』(*2)に雰囲気似てますねそういえば。
こんな機会でもないと生涯読まなかったんじゃないのっていう作家の作品にバッタリ出会えるのも面白いところで、今回驚かされたのは佐藤マコトとやまだないと。
佐藤マコトっつったら『サトラレ』がドラマになってましたよね、観てないし読んでないけど。程度の認識しかなかったこの僕ですが、舌噛んで死んだ方が良かったんじゃねえの自分っていうくらい魅力的な絵と話で猛反省ですよ実際。やべえこの人こんないい絵といい話描くのか! 買うわサトラレ、とりあえず単行本行くわってな具合。
そして今回いちばんのサプライズがやまだないと版BJ。まーやまだないとっていう人の作品、僕の人生にまずクロスしねえだろと思ってはいたし今も思わんでもないのですが、それにしてもこの作品性の高さにはやられた。一見していきなりアゴヒゲを生やしたBJにそれアリかよと思わせておきながら、細かいセリフ回しや小ギャグ、たびたび出てくる手塚スターシステムキャラクター達はまごうことなき手塚BJ。途中にチラっと出てくる手塚版BJくりそつな絵とか見るに、普通にBJも描けるけどあえてこういうアゴヒゲ有りにしたという心意気っつうんですか、それ。そんでこの内容がまた手塚BJ的なムードを保ちつつひどくロマンティックで切ない話で、ええまあ泣かすわぶっちゃけ。大いに泣かされましたわ個人的に。

とにかくこれだけ特徴があると、誰がどんなふうに描いてもちゃんと瞬時にBJに見えるもんだなあということですよ。いや、わざとその特徴を崩して描いた手塚眞やきくち正太ややまだないとは別として。
てなわけで僕もためしに描いてみたのがこの横の方にあるやつ。うーんまあなんだその、記号さえ満たしてればBJかっつうと、やっぱそういうわけでもないようだ。
*1 このシリーズ
いちおう前作が『ブラック・ジャック マガジン』だと思うのでこう書いたけど、『マガジン』と『スペシャル』では判型からして違うのではたしてシリーズと呼んだものかどうか。*2 『バットマン:ブラック・アンド・ホワイト』
『BATMAN: BLACK AND WHITE』の邦訳版(そのまま)。色んな作家が好き勝手にバットマン描いてる。なぜか『AKIRA』の大友克洋まで描いてる。ついでに余談
この2シリーズの他に、『ALIVE』で1作描いたらそれがあまりに傑作だったんで連載化しちゃった田口雅之の『ブラック・ジャック NEO』と、週刊チャンピオンで隔週連載中のリメイクシリーズ『ブラック・ジャック 〜黒い医師〜』(山本賢治)があって、どっちもこれまた面白い。『NEO』はあの原作をおおいに独自解釈してすごい領域に入ってしまった『バトル・ロワイアル』マンガ版の田口雅之だし当然絵はあの繊細かつものすごく濃い画風だしでどうなることかと思ったら、これが原作版BJのリスペクトは欠かさずそれでいて現代的でオリジナリティ溢れ、かつ単品作品として面白く完成してるという極まったマンガになっていて驚愕。
一方『黒い医師』は『カオシックルーン』でおなじみ爽やかな絵柄で臓物飛び散り放題バイオレンス悪趣味アクションを描くナイスボンクラ作家山本賢治の作画でどうなることかと思ったら、やっぱり山本賢治だけあって物凄く悪人めいた面構えのBJがその奇跡のメスで今日も誰かを救うんだか救わないんだか、とりあえず切る(奇跡のメスで)。何はなくとも切る。むしろ切りたい。という感じの手術フリークが主人公のダークヒーロー漫画に変わり果てていて、どこがヒューマン・コミックスだよこれ! というつっこみ所は満載だが、いちマンガとして間違いなく魅力的という、もう大好きこれ。いつかの『ガラスの仮面』で同じ展開・同じセリフ回しなのに演技によってまったく違うストーリーに見せてしまうという話がありましたが、いわばそれのブラック・ジャック版。セリフや大筋は手塚版のまんまでまったく違うヒーロー像が描かれているっていう。