2000.01.16(本の話より)
謎の意訳
たとえば、これ去年の末にiBookが品不足になってたころ、あるアメリカのコンピュータショップで実際にあった広告なんですけど、「Don't sing 'the I want My iBook' Blues.」というコピーがあります。そのまま直訳すると「『私のiBookが欲しい』ブルースを歌ってはいけません」となりますが、要するにウチならiBookもたくさんありまっせ、悲しみのブルースなんざ歌う必要ありませんぜ、っていうコピーなわけです。そういう意味も勘案して広告コピーだということも考えて意訳すると「もう『iBook欲しいブルース』とはサヨナラ!」という感じでしょうか。だいたい。あんまりいい訳じゃないでしょうけど、ここではそういうことは問題じゃないんです。
問題は、ここで翻訳者の人がどういう気の回し方をしたのか、まったく読者になじみのない表現で意訳されることがあるということなのです。「『iBookちょうだいの歌』を歌わナーイ!」とか。なんだこの気持ち悪い文章は。でも、こういうことってないですか? このあいだ、そういう訳の本に当たっちゃって、感情移入できなくて困っちゃったんだよ。まあ、あえて書名をここで書くほどじゃないんだけどさ。面白かったし。
で、今まで読んだ翻訳でいちばん凄いと思ったのはマキャモンの『ブルー・ワールド』という小説です。これの中に、ストーカーが登場するんだけど、まあ細かいことをはぶいて言うと、そいつがストーカーだと判明するシーンがあるんですね。そいつ本人の知らぬところで。たぶん原書だと(確認したわけじゃないけど)「stalker」って言ってたと思うんですよ。つまり、
「そういう奴をなんて言うか知ってるか?……stalker」
ていうシーン(うろおぼえ)なんですけど。で、当時の日本にはストーカーっていう言葉がまだなかったわけで、訳者の人もなんて訳せばいいのか考えたと思うんですよ。でも、よりによってこれはないんじゃないのか?
「そういう奴をなんて言うか知ってるか?……しのび」
いや、それはないだろう。
どうしてこんなことになったのか、詳しい事情を知っている方はマジでおしらせください。私の好奇心がはげしく真実を知りたがっているのです。だからって原書あたるほどでもないのだけど。