2001.08.13(映画の話より)
デスペラード
タランティーノ的なる言葉、とそれを名付けたい。何の話だいったい、と思うだろうがそれはつまり、「フル・ティルト・ブギ」に代表されるああいった言葉のことである。何の話だ、いったい。
もう少し順序立てて言うと、『フル・ティルト・ブギ』とは映画『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(*1)のメイキングビデオのタイトルで、ちなみにこの作品がクエンティン・タランティーノ監督の強い影響下にあることは言うまでもない。
そういうわけでタランティーノ的なる言葉である。別にこの映画やビデオの中でタランティーノが発する言葉(*2)がどうこうという意味ではなく、純粋に「フル・ティルト・ブギ」という言葉カッチョイー! ムヒョー! とか思っているのである。
フル・ティルト・ブギ、その語感だけでも相当なものだが、意味もなかなかうならせる。直訳すると「全速力のブギ」といったところだろうか。ブギとはもちろん例の下品かつド迫力で渋いダンスのことである。しかしtiltもboogieも色々な別の意味があって、一概に直訳もできない。だいいちブギ自体にも俗語で「急いで行く」という意味もあるから「全速力の超早」とかそういう意味合いもでてくるのだった。日本語にすると物凄く味わいがない。やはりフル・ティルト・ブギだ。レンタル屋でこのパッケージを見るたびに心底素晴らしいと思う。信じられないほど見事なタイトルだ。男子たるもの一生に一度はこんなタイトルを付けてみたいものだ。何がだ。
「フロム・ダスク・ティル・ドーン」というタイトルも良かった。まあこの辺はもちろんタランティーノが考えたわけじゃなくてロバート・ロドリゲスのセンスが生み出したものだろうが、それにしてもタランティーノ的であるのは読者も納得してもらえると思う。クールというには泥臭く、マッチョイズムと呼ぶには洗練されすぎている。こういった言葉のセンスで抜群といえばやはりタランティーノではないのか。『ジャッキー・ブラウン』というタイトルには心底グッときたものだ。単なる人名なんだけどさ。そういう問題じゃなく。
スティーブン・キング(*3)も最近凄いことになっている。『ガンスリンガー』や『ザ・スリー』あたりも心にズドンと来るが、やはり白眉は『レギュレイターズ / デスペレーション』(*4)だろう。なんだかタイトルの話ばかりしているが。それにしてもこの語感は凄い。やはりラ行音と濁音、そして母音の使いどころを心得ている。この言葉のチョイスにしびれるのだ。読者はこの話についてきてくれているだろうか。