2001.02.27(本の話より)
本屋にて
たとえば本屋でこんな人物を見かけたらあなたはどう思うだろうか。本を手に取る。それはいい。だが彼はどういうつもりなのかその本を開くでもなく、ただまじまじと表紙を見つめているのだ。凝視といっていい熱のいれようだった。それどころか慈しむかのように指で触れたりする。表紙を。かと思うと本をひっくり返 して、裏表紙を見たりする。もちろん凝視である。どうなんだ。ほかにすることがあるんじゃないのか。彼はさらに思い切った行動にでる。カバーを外したのだ。本はハードカバーだった。そんなことはどうでもいい。そして裸になった本を例によって凝視した後、なぜだか強く頷いたりもする。やっとページをめくり始めたかと思うと、いきなり「とくしょっ……」と呟く。意味が分からない。彼がページを進める速さからみて、到底文字を読んでいると思えないのに、その瞳は真剣そのものだ。彼が特に引き寄せられているのは奥付である。他に見るべきところがあるんじゃないのか。どうなんだいったい。実を言えば、これは私である。正直自分でもこれはあんまりな人物像じゃないかと思うが、本屋における私はこういう痛い人間であるのだ。
タネを明かすと、要するに僕は本の装丁が好きなのである。ちょっとしたオタクと言うべきだろう。マニアというほどではない。一般的にはこれでも充分にナニなあれではあると思うが、上には上がいるというものだ。
前述の奇行も要するに美しい本の装丁を見て夢中になっているのである。まず表紙に目を奪われ、その紙質を指で確かめているのだ。けっこう高い紙使ってるなあ、でもさすがに質感違うよなあ、とか思いながら。とうぜん裏表紙にも目が行く。バーコードをこういうふうに処理するかあ、違うなあ、と僕は思うのだ。当然カバーの下にも興味はゆく。カバーの内側は内側でまた凝った処理になっている。いいデザインだ。格好いい。これだ! と僕は頷くのだった。そしてページを開くと、そこに特色(*1)が使われている。圧倒されて我知らず「とくしょっ……」と声が出てしまいあわてて口を閉じる。特色しかも本文に使うかあ、やるなあ。高くついたろうなあ。ぱらぱらとページをめくる。全体の構成も予想通り見事だった。書体といい配置といい、見事に美しい。独特でいてそれが変じゃない。全然カッコ良い。素晴らしいと思って、僕は奥付をさがす。そう、この抜群の仕事をした連中は誰か知りたいのだ。たいてい装丁といえば奥付に書いてあるものだ。ああなるほどそうじゃないかと思ったらやっぱり祖父江慎 (COZ FISH)(*2) かあ。つくづくいいなあこの人の仕事。
えーとまあみなさん、試しに注意して本の表紙とか見てみてください (高いだけあってハードカバーには良品も多いですよ) 。マジでその美しさ/カッコ良さにはけっこう脳天にガッてくると思います。ちょっとした映画鑑賞気分で、ゼヒ。