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2005.08.01(シルバー事件より)

スギウラよ、お前はどこにいた

 今日も例によって"transmitter"と"placebo"を1話ずつ終えて、簡単にいうとネットワークっていうのは、アレよねー、みたいな話だったんだけど(こんなにも人のやる気をそぐ紹介のしかたがあるのだろうか)、そんなことはさておき長い前置きを始めようか。

 「しゃべらないプレイヤーキャラ」というものをどう解釈するか、意外と人によってそれはバラバラである。
 いちばん有名な例で言うと、ドラクエの主人公はしゃべらない(*1)。クレイジー・D(ダイアモンド)は砕けないそうだが、ドラクエの主人公はしゃべらない。←書くんじゃなかった。
 ある種のプレイヤーはこの主人公を「ぜんぜんしゃべらない人」と認識しているそうだ。なんか話しかけられてもじっと黙っている。うなずいたり首を振ったりはするかもしれないが、声は出さない。彼がしゃべるのは「はい」とか「いいえ」とか「みんながんばれ」とか、ゲーム中にちゃんと明示されるコマンドだけである。
 またある種のプレイヤーにとってはこの主人公はプレイヤー本人であって、プレイヤーが思ったことがイコール主人公のセリフ(あるいは思考)になるという。村人に気に障るセリフを言われて「うっさい」と思ったら、それは主人公が「うっさい」と言ってる(少なくとも思っている)ことになるのだ。
 そしてある種のプレイヤーは、主人公が主人公らしいセリフを喋っていると想像する。なんつうのいわゆる脳内設定つうやつを多かれ少なかれ構築し、その性格に合わせたセリフを喋っていることにする。村人のセリフでムカついても、設定上の主人公が柔和な性格であれば笑って許しているところを想像し、そんな感じのセリフを脳裏に描くのだ。
 白状すると、いちばん最後の「設定に合わせたセリフを想像型」である僕にとって、「プレイヤー=主人公型」はまだしも、最初の「ぜんぜんしゃべらない型」解釈の存在はかなり衝撃的だった。そんな考え方があるとは思いもしなかったのだ。良い悪いじゃなく、単純に驚いた。まさかって思った。今はもう慣れましたが。
 思うに、これはある種の世代論になるんじゃないだろうか。ゲームに出てくる主人公とのファーストコンタクトがなんだったかでけっこうその後の主人公観が変わってきたりはしないか。
 たとえば『ファイナルファンタジー』というゲームがある。このシリーズでうかつに「プレイヤー=主人公型」とか「設定に合わせたセリフを想像型」で遊ぶと、そりゃゲームが目茶苦茶になることだろう。自分の思い通りに喋ってるのを想像してたら一転、思いもよらないセリフをゲーム中で喋り出すことになるんだから。あ、『1』と『XI』を除いた話ですけど。そういうのに慣れたプレイヤーは、他のゲームでも同様のルールを適用しがちなのではないのか。そういうもんでもないのか(弱気)。そういう流れでドラクエも「ぜんぜんしゃべらない型」で遊んでるってことはないだろうか。
 ドラクエはこの点けっこうスタンスがあいまいで、実際どのスタイルで遊んでもそれなりに通用するようにできている。とは言え、作り手側の意識としては「プレイヤー=主人公型」を中心に作っているように見える(特に初期3部作にその傾向は強い)。このあたりのゲームに親しんでると、他の主人公がしゃべらないゲームでもやっぱり「プレイヤー=主人公型」になりがちだったりしないだろうか。誰に聞いたわけでもないので想像だけど。
 『ウィザードリィ』なんかだと、ドラクエの「ゆうしゃ」的ピンの主人公ポジションが存在せずにいきなり6人編成の主人公パーティーで始まるから、このゲームを「プレイヤー=主人公型」で遊ぶのは無理というものだろう。まあ、パーティーの1人に自分の名前をつけてそいつ=主人公=自分っていう遊び方は可能だけど、その他の5人はさすがに「設定に合わせたセリフを想像型」で遊ぶことになる。このへんの古典に属するゲームとか、あとさらにさかのぼってテーブルトークRPGとかを主に遊んでた世代はやっぱり、いくつになっても「設定に合わせたセリフを想像型」かたぎが抜けないってことはないですかね。
 ものすごくおおざっぱな分類で、無理あるなあってのは今書いてても思った。
 実際あきらかにこの世代に属するクリエイターがただ何も考えずに作ってみたようなゲームとかでも、けっこう『ブルトン・レイ』みたく今までしゃべらなかった主人公が最後になっていきなり裏設定まじりのセリフを語り出すとかそういうことも多かったしなあ(*2)

 というのが前置き。(ひどいと自分でも思う)
 『シルバー事件』の主人公はしゃべらない。いや、それだとさすがに捜査に支障が出るからしゃべってないわけじゃないんだろうけど、少なくとも画面上にセリフは表示されない。
 最初のうち、僕はこの主人公に自分を投影して遊んでいた。「設定に合わせたセリフを想像型」の自分としてはえらく珍しいパターンである。ふう、このことを言いたいがためにあの前置きはあったのだ。
 ゲーム画面がポリゴンの主観視点だったこともあるし、名前に「スギウラ」なんつう自分のハンドルネームを入れた影響もあったのだと思う。ゲーム中みんながスギウラスギウラ呼んでくるから、おう俺っちのことかいと僕もなんとなく思ったのだ。
 だが、遊んでるうちにどうも様子が変わってきた。ものすごく陰影の濃い顔グラフィックが出てきた。陰影が濃いのは顔を影で隠してプレイヤーに予断を持たせないための措置だったのだろうけど、なんかかえって不気味なイメージが先行してしまった。それに、他のキャラクターのセリフで描写もされることも何度か出てきた。いちばん始末に困ったのは「自衛隊みたいな」というやつだ。どう客観的に考えても僕はパッと見の印象が自衛隊員って感じではない。ないのであります、上官殿。←自衛隊員に対するおそらく誤った認識
 結局いつのまにか僕の中でスギウラというキャラクター像ができてしまった。スギウラは短髪で背が高く、引き締まった体格の男である。そのくせ体育会系という感じではなく、どっちかと言うと隣にいる人を居心地悪くさせるような物静かな男である。顔なんかは線が細くいい男とも言えば言えるがそれ以前に、大切にしていたペットが死んだ朝にそのまま出勤したような目をいつもしてるせいであんまり第一印象のよくない男である。不満があっても表に出さないし、だいいち現状をありのままに受け入れて不満をそんなに持たない男である。笑う時は顔を背けてこっそり笑い、微笑む時も目を伏せてそっと微笑む男である。もう何年も泣いていないし、怒った時でも表情の変わらぬ男である。
 いったい誰なんだ、こいつは。なんか知らないが遊んでるうちにこういうことになったのだった。
 自己主張が少ないところなんかはたぶん、ゲーム中で独断先行したりしないところから来ているのだろう。そういうのは主人公以外のキャラの役目だったのだ。妙に落ち着いて見えるのはやはりゲーム中、慌てるような描写がなかったからだろう。慌ててもいいようなシーンは何度かあったのだけれど、そういうときはたいてい周囲も主人公どころではなかったので、スギウラが慌てる描写がプレイヤーである僕には見えなかったのだ。第一印象が悪いのも、いろんなキャラクターからとっつき悪そうな対応をされているからだろう。まあ、そりゃ殺人事件とかを追ってる刑事的存在がそんなにいい対応をされるとも思えないけど。
 そんなこんなでゲーム中の描写に合わせていつのまにやら僕の中のスギウラ像が形成されていったのだが、ここまで書いてちょっと気になることを思い出した。かなり初期のころ、とある動物みたいな顔をしてると某キャラクターに言われていたのだ。僕はその動物がどんな見た目をしてたか憶えてなく、えーとたしかあれイギリスかどっかの犬種でわりとスッキリした見た目の長毛種だったよな、とかぼんやりと思ったままだいたいそんなとこだろう的に今まで流していたのだけど、いちおういまGoogleでイメージ検索してみた。ゲームをやった方ならおわかりですね。そう、あの動物。ゲーム遊んでない人にも隠すほどのことではないと思うので、検索結果はこちら
 ……うわあ、スギウラのイメージと全然ちがったなあこれ。

 というか僕はどこをどうやってこれを「イギリスかどっかの犬種でわりとスッキリした見た目の長毛種」だと憶えていたのか、そっちの方がむしろ問題ではないのか。大丈夫か。

*1 ドラクエの主人公はしゃべらない

正確には『1』と『3』ではひとことずつしゃべった。この話出すたびに毎回言ってしまってるけど。

*2 『ブルトン・レイ』

いくらなんでもたとえが古いよ。まあ、それぐらい衝撃的だったっていうことです、最後になっていきなり裏設定まじりのセリフを語り出す主人公。今までの自分の想像してたキャラとあまりにもイメージが違いすぎてたので。

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