人生: 事件解決

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2005.08.02(シルバー事件より)

事件解決

 これから『シルバー事件』を遊んでみようと思っている人(*1)にはちょっと引いてしまうことかもしれないが、実は僕はこのゲームがちょっと苦手だった。プレステの電源を入れるのにちょっとばかり気が重たいこと多々だった。
 こんなことを書いてしまうと今まで読んでいた人から、あんたあんなに面白え面白えって言ってたじゃないかよ! 大人って、信用できねえ! この支配からの脱出! 盗んだバイク! 夜の校舎窓ガラス! という感じで怒られるかもしれない。いや実際面白かったんだけど、あるじゃない面白そうなホラー映画だけど怖いから観たくないとか、いい曲なんだけどハードすぎて疲れるから聴きたくないとか、そういうやつ。
 このゲームを遊ぶたびに気が重たかったのは、ゲームに登場する誰も彼もがギスギスしていたからだ。
 とにかく登場人物たちの会話がみんなエゴイスティックというか、自分自身に分かるようにしかしゃべらないっていうか、どの連中も相手の共感を得る努力最初から放棄してるようなしゃべり方ばっかりで、会話と気持ちがすれ違うことTV版Zガンダムのごとし。君らはどこの富野ゼリフ(*2)かと。人はわかりあえるってララァとかが言ってた気がするよと、そうアムロは言ってたというのに。何の話だ。
 そんなお互いを拒絶しあうような会話の連続で、またこのゲーム『キラー7』や『花と太陽と雨と』なんかと比べてセリフの量が膨大なんですよ。こんなトークを延々読ませられるのはぶっちゃけ辛い。しかし暗くよどんだ世界観は魅力だし、話がこの先どう進むのかは物凄く興味あるしで、毎日うーんと思いつつ電源を入れ、ウヒョーと喜びながら遊んでたわけです。
 そういや今日ゲーム終わったんだけど(さらっと言うテクニック)、まったく最後まで彼らはすれ違う言葉ばかりをぶつけ合うのだった。人間がそんな便利になれるわけないってセイラさんも言ってたしなあ。
 だが、ここまで読んで「それは、なんかやだなあ」と思った人はちょっと待ってほしい。たまに、たまにではあるが気持ちが通じ合う瞬間があるのだ。時として彼らは「自分にしか分からない話」をやめて、「自分たちにだけ分かる話」をするのだ。あれ、たいして変わらないか。いやいやむしろ2人の間でだけ通じる会話であり、どっちかっつうと心が通じ合ってるからこそできる会話なのだ。いつも会話のキャッチボールというよりはドッジボールになってる中で、不意にちゃんと互いにボールを受け止めあってる会話が成立するからこそそれは尊い。
 正直言って、あの場面の彼の一連のセリフには、ぐっときたね。やっと心が開かれた!っつうのでしょうか。

 さてそろそろ実際のゲームの話をする頃合いなんだけど、なにしろもうゲーム終わっちゃったんで、その、クライマックス周辺なんであまりにも書けないことが多すぎる。
 簡単にかつ具体的なところをぼかしながら言えば、主人公スギウラにも後輩ができ、よし今日からお前の名前はゴリラ風だ。そしてお前の名前はナイスピチめのタートルネックだ。等、露骨な侮辱とセクハラまがいのニックネーム命名をしたかったもののそんなシステムがあるわけでもなく、あれよあれよという間に捜査は大詰めを迎える。そしてついにこの街に平和が戻った! いやそんな単純な話ではなかった! でもその一方でこの街の謎が解けた! と思ったら違った! しかしあの人の正体が判明した! だがそれどころではなかった! そう、もっと凄い秘密があばかれた! だけどそれ以上の秘密もあばかれた! いやいやそんなものではなかった!
 ……とか、そんな感じのたたみかけにたたみかける展開で、最初のころ後輩に「ゴリラ風」とか屈辱的なニックネームを付けようとか思ってたのが今思うと嘘のようです。
 そういう衝撃の展開をいちいちメモしながら頭の中で整理していくと、なんだかんだで話はきれいにまとまった。考えてみると『キラー7』とか『花と太陽と雨と』がゲーム冒頭から不条理展開わんさと取り揃えて何のつっこみもなしに流してたのに比べると、イントロからラストまでキレイにまとまる話だったんだなあシルバー事件。と、しみじみ思ってると……
 ええええええ!? おい、それ、こんな場面で言い出すか!? なんだこれは、オチか! 今までの全部ここに持ってくるための前フリか! ってな感じでドーンと一発やられちゃったんですけど、ええこの頭悪い文章表現はゲーム遊んでない人のために一応具体的な内容を隠しているのです。不条理展開になるとかそういう意味とは違くてなんつうかその、まあいいや。そして始まるエンディング。

 いやはや最後までやってくれるゲームだった。
 冒頭から物凄い情報量で圧倒し、独特の乾いた世界観に酔わせ、最後はムチャにつぐムチャで頭を引っかき回す。まったく、この1作でコアなファンがついたという世間の評判も納得だ。まあ、逆にライトなファンがまったくつかなかったという世間の評判にも納得いく面はございますが。
 確かになあ、テキストはたいがい不親切でサイバーパンク小説調に「読者がわからなくても気にせず進む」方式だし、ゲームシステム自体は旧態依然の単純な移動とフラグ立てと若干のパズルだし(もっともこれは当時のアドベンチャーゲームだってたいていこんなものだったと僕は思うのですが)、こういうゲームがぶっちぎり売り上げ1位を取る世の中があるとすればそれはそれで間違ってる気がする。思えば『シルバー事件』発売から6年、『キラー7』みたくキャッチーなゲーム(その割にストーリーラインと演出ははっちゃけてたとしても)を出せるようになったなんてグラスホッパー・マニファクチュアもがんばったわねえという感じ。もしかすると主にがんばったのはカプコンの方なのかもしれませんが。
 もしこのゲーム日記を読んで、グラスホッパー・マニファクチュアのゲームを遊んでみたいと思った人がいるとしたら、僕はまず『キラー7』から遊んでみなよと言っておきたい。とっつきの良さでは間違いなく群を抜いているのだから。そして次に遊ぶんなら『シルバー事件』を勧めておきたい。いきなり最新ハードからプレステまでさかのぼるギャップはあるかもしれないが、そうは言っても『花と太陽と雨と』より先に『シルバー事件』は遊んでおくべきなのだ。『花と太陽と雨と』には『シルバー事件』のネタバレがあるのだ。そして『シルバー事件』で思いきり胃にもたれるようなディープな内容に酔ったら、次こそ胃薬みたく軽いタッチの『花と太陽と雨と』を思いきり遊べばいいさ。
 どのゲームでも言えることは、どれも作家性が物凄く出ててノリが合いさえすればマジ面白えですよってことだ。不条理劇とか見るのもいやだって人にはさすがにおすすめできませんが。「お話はちゃんとしてないと嫌だ」っていう人にはとても勧められない。ちゃんとしてない話にもちゃんとしてないという面白さがあるのだ(ないこともあるが)という事を受け入れてないと、これらのゲームは楽しめないと思う。
 あとゲーム性を真剣に求める人にも、ちょっと勧めづらい。どれもゲームという媒体でないと成立しない内容ではあるんだけど、それでいて作家性をとっぱらって単純にゲーム性だけで見たらなんか凄い普通、っていうゲームだからなあ。
 もはやホメてるんだかなんなんだかわからない話の流れになってきましたが、僕としてはグラスホッパー・マニファクチュア、OK!つう感じで。次の新作はいったいいつ出るんだろうか。そしてどのメーカーから発売されることになるんだろうか。なんだか変なところでドキドキさせてくれるぜ、グラスホッパー・マニファクチュア。

*1 これから『シルバー事件』を遊んでみようと思っている人

いるのか。いや、でも『Killer7』を遊んでこっちにも興味を持つというパターンはありえる話だ。というかそれ僕か。

*2 富野ゼリフ

ガンダム関係をたびたび総監督することでおなじみ富野監督の特徴的セリフ文体と会話表現。
「父の『グレート・デギン(※軍艦)』、どこに配備されているのです?」
「沈んだよ。先行しすぎてな」
「父から譲り受けたので?」
「父が『グレート・デギン』を手放すと思うか?」
「思いません」
「では、そういうことだ」
 この会話が「父殺しの告白」として成立しているというからびっくりだ。

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