2005.08.06(サイレントヒル2 最期の詩より)
暗闇でドッキリ
このゲームの怖さの真髄は「暗闇の恐怖」にあるといえる。暗闇の向こうに、自分にも予想のつかない恐ろしい何かが潜んでいるような気がする恐怖。暗闇の向こうに、霧の奥に、ドアの先に、ロッカーの中に。何かがいるかもしれない。それを実際に目にするまでそれは「恐ろしい何か」であって、明確に定義できる存在ではない。だからこそ怖いのだ。その先にいるのがたとえばポリゴンでできた下から3番目くらいの強さのクリーチャーだと知っていれば、きっとそれは怖くはない。あるいは、その先に何もいないことが分かっていれば。
実際に目にするまで、いかにも何かありそうな空間の中で、プレイヤーである僕は身構える。初めて歩く場所では常に身構えている。いつ何が出てきてもおかしくないと知っているからだ。
身構えているというのは、つまり「怖がっている」ということだ。初めて歩く場所では、僕は常に怖がっているのだ。
逆に言えば、身構えているだけに本当にクリーチャーが出たり、謎めいた不気味なムービーが始まったとしてもそれはそんなに怖くない。クリーチャーが出るんじゃないか、ムービーが始まるんじゃないかと、ある意味心の準備はできているのだ。言いかえると「突然飛び出してドッキリ」はこのゲームの場合、さほどしないということだ。
だというのに、あのあばずれは。
さて今日のゲームの話をすれば、前回出会ったとあるあばずれ女と共に、とある事情でとある施設にやってきたのだった。「とある」を何度もくり返していると、意味がよくわからなくなる。辞書によれば「〜と、ある」の変化らしいが、言葉の用法がすでに原型をとどめていないのでますますわからなくなってきた。
とにかくとある施設である。例によって真っ暗闇である。懐中電灯の明かりだけが頼りである。当然、怖い。どっから何が出てくるのかわからない。ごめん、ちょっと泣きそう。
ところでここで思い出してほしいのだけど、この場所には例のあばずれ女も同行している。ゲームやってない人向けに説明すると、主人公の後ろについて歩く、まあ強引に言えばドラクエのパーティーキャラっぽい感じで(いま『ゴーレム』っぽい感じで、と書こうとしていまどきたとえにディスクシステムはないだろうと思い直した)主人公の後ろをトコトコついてくるのである。
問題はこのついてき方である。ドラクエなんかでも階段を上った直後とかはパーティーキャラが主人公のまさに目と鼻の先に立ってたりするものだが、サイレントヒル2でもやっぱりドアを開けた直後には主人公の目と鼻の先に立っている。具体的に表現すると、ドアを開けてローディングが終わり、ドアの向こうの部屋に画面が切り替わると、目と鼻の先に立ってるのである。こ、怖え!
さっきまで君、後ろについてきてたんじゃないのかね! いきなり先回りとかしないでいただきたい! だいいちこの場所基本的に真っ暗だから懐中電灯で顔だけ照らされたりして不必要に怖いライティングになってるし!
そうなのだ。画面切り替わるたびにこのあばずれ女が予想もつかない場所にいきなり現われては僕の度肝を抜くのだ。「突然飛び出してドッキリ」系の怖さが無いはずのこのゲームで、単なるパーティーの一員だったはずのこのあばずれがまさしく暗闇でドッキリをしかけてくるのだ、無自覚に。そりゃドア開けた直後だから主人公の背中側は閉じたドアであって、ここをすり抜けて出てきてもそれはそれでどうなのっていう気はしますよ。しますけれども、率直に言ってあんた怖えんだよ!
むしろ画面切り替え時に限らず、後ろを向いた時とかにも突然視界に不健康そうな女の顔が現われてドッキリ、歩いていても突然背後からコツコツと靴音が響いてドッキリと、いまどき何のスターどっきりマル秘報告新人アイドル怪奇スポットドッキリですかっていう仕打ちである。無自覚に。どんな茅原先生だ(*1)。
もうついてくんな、頼む! と思ったその気持ちが通じたか、とある事情で別行動をとることになるあばずれ女。やれやれ、やっといつもの調子に戻れるわいと安心してあちこちウロウロしては恐怖におののいてたわけですが(←いつもの調子でもこの程度)、なんつうか、このあばずれ女、パーティーに戻る事情になったのはしかたないとしても、唐突にアップで出てくんな!
なんという緩急をつけた見事なドッキリだろうか。すっかり気を抜いたところにいきなり出てくるとは、くそう。お前なんかどっかいっちゃえ。と思ってもストーリーの流れ上このあばずれはちょっとしたおしかけ女房さながらにパーティーに戻ってくる。押しかけ女房といえば江戸時代から伝わる由緒正しい萌え要素とされるが、あんた普通に顔怖いんだよ! このゲームのキャラ全般に言えることですが。
そんなこんなでまったく和気あいあいとしないままにゲームは進み、今の進行状況をぼんやりと記すと、追い掛け回されてしょんぼりとした場面です。しょんぼりするなあ。