人生: 文化の衝突

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2005.08.14(マンガ・アニメの話より)

文化の衝突

 ふだん赤マルジャンプを「うっかりジャンプと間違えて買いそうになる、ある種の罠」というとらえ方しかしていない僕ですが、今回発売の2005年夏号だけは別だ。『武装錬金ファイナル』が載ってんだよあの惜しくも(というか、まあ、やっぱりというか)打ち切りになった『武装錬金』のファイナルエピソードが!
 てなわけで慌てて買ってきたわけですが、一応公式発売日より前(*1)なので武装錬金の話はしないでおくことにして。

 読んでて衝撃を受けたのが、巻末に掲載されていた『wisse Maria』というマンガ……というかコミックというか、なんとも言えないものだ。
 なんでもドイツ語版少年ジャンプ(『BANZAI!』)の漫画賞受賞作品らしくて、当然描いたのもドイツ人。しかしこれ、最初見た時自分の目がおかしくなったのかと思ったよ。
Weisse Maria
Rene Scheibe『weisse Maria』(赤マルジャンプ2005SUMMER掲載)より

 絵が死んでいるとかコマ割りの間が平坦とかそもそも何が起きているのか読んでてもわからないとか純粋にぜんぜん面白くないとか、マジ半端ねえコミッククラッシャーぶり。な、なんだこれ、ドイツ中探してこんなのしかいなかったのか! ドイツ人はみんなアレなのか! こんなことならベルリンの壁崩すんじゃなかった!(暴言) と思ったけど、よく考えたら同じドイツ人でも『MAUS(*2)みたいな傑作描いてる人もいるんだけどなあ。
 つまりこのマンガ(いちおうそう呼ぶ)、無理に日本のマンガっぽく描こうとしたらこうなったらしい。思えば『MAUS』も'90年代のコミックとして確実にありえなくねっていうくらいクラシックなコマ割りとタッチでしたけど、そういう環境の中で日本マンガを彼らなりに分析して解釈した上で描いたのがアレだったんじゃないかっていう。
 このことから明らかになるのは、君らの解釈はヘンだからそれマジで、ということだ。

 いやバカにしてるわけじゃなくて、興味深い事実だなあと。そりゃ確かに僕も最初に読んだ時はドイツ人ありえねえ!とか思いましたが、今は純粋に興味深いって思う。
 つまるところドイツ人、まだ「日本マンガの読み方」を知らないっていうことですよ。そういや僕もアメコミ最初に読んだ時はアメコミ特有の「コマとコマの『行間』を読まないといけない」(*3)というお約束が理解できず、なんで日本のマンガだと10コマ以上はかけるこんな場面を1コマだけで描いちゃうのかとしばしば頭を悩ましたものですが。
 生きた絵の描き方とか動きのあるコマ割りのしかたとかそもそも情景描写のしかたとか、日本に生きてる僕らがふだん何も気にせず読んでるマンガのお約束とかを、彼らはそもそも知らずに今までずっと生きてきた。知識ゼロの状態からドイツ語版少年ジャンプというケーススタディだけ(かどうかは知らないけど)を頼りに少しずつ勉強している。その中途半端な段階での成果が、今回のひどくいびつなマンガなのだろう。
 「もし日本のポップスが海外で大売れしたとしても、その曲は日本人が聴くのと同じ感覚で聴かれているというわけではないだろう」てなことを最初に言ったのは糸井重里さんだったかしら。それと同じことで、日本人がマンガを読むようにはドイツ人は日本のマンガを読んでない。彼らドイツ人の目には、たぶん日本のマンガはどっちかというと『wisse Maria』みたいに見えてるのだ。
 日本のマンガが海外で高い評価を受けているなんて話も、こういうのを見ると話半分で聞いた方がいいんじゃねえのと僕なんかは思う。たぶん僕らが読むのと違う読み方されてるよ『HUNTER×HUNTER』。

*1 公式発売日より前

お盆休みのまっただ中が発売日になった都合上、本来の発売日よりかなり前に本屋に卸されているらしい。

*2 『MAUS』

アート・スピーゲルマン著。日本語版(『マウス:アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語』)は晶文社より刊行中。

*3 コマとコマの『行間』を読まないといけない

アメコミはコマとコマの間の「画」だけ省略する(だから1コマの中に異常に大量のセリフが詰め込まれてるように見える)。読者はコマとコマの間にあるキャラクターの動作を想像しながら読まないといけないのだ。

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コメント

【1】蒼子

たいへん興味深いお話を! ありがとうございます!
いえ、私は漫画読みとも呼べないただの通りすがりの者ですが、「日本の漫画が海外で人気」だとか「オタク文化の輸出」だとかいわれる近年の状況には非常に興味というか胸騒ぎがあったのです。
多分あれこれ見間違えたりすれ違ったりしたまま読まれているんじゃないんだろーか…という懸念とか不安とか、外野なりに色々と。
音楽でも映画でも、みんな同じことでしょうね。
だから小◯安二郎や少年ナ◯フがあんなことに以下自粛。

そうか、こんな感じの実を結んでいるのですか、ドイツでジャンプが。
驚きました。
気合の日本語表記も、応募する時には当然の基本なのでしょうか?
といっても、何が何だかホントわかりづらいですね。
これはほんの一部でしょうか。恐いもの見たさなのか、全部読んでみたくなりますちょっと。←野次馬根性は恥ずかしいですよ。

また、アメコミもそういうスタイルのものだとは存じませず。
読んでみたい気持ちはありながら、探すの難しいし英語があれだしでまだ入門前なのです。
いつか出会った暁(出会う予感はある)には、このお教えを思い出して臨めることでしょう。
それだけでもありがたいことです。クロウとか読みたい。

驚きのあまり、何の実りもないコメントを失礼致しました。

(2006.06.04 06:24PM)

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