人生: 狂気の山脈

鉄の靴  > 人生  > 狂気の山脈

2006.07.02(MOTHER2より)

狂気の山脈

 僕のMOTHER2記憶(それはひどくあいまい)をひもとくと、このゲームには3つ大きな「気持ち悪いヤマ場」があった気がしたが、そもそもあいまいな記憶なんで断言はとてもできない。
 ひとつはゲーム序盤の青い感じのあそこ。というか遊ぶまで忘れてたけど。で、もうひとつはゲーム終盤のある展開。もっともこれは気持ち悪いというか切ないというか悲しいというかなんともいえない感情がそこにはあり、それを総称して「気持ち悪い」とこれ言うのだけど。そして最後のひとつがブッちぎりで気持ち悪いあの場面である。今日遊んだあそこである。

 ここのことをネタバレにもならずに説明するのは不可能に近いが、ごくおおざっぱに言うと話す相手全員がナチュラルに狂っている。会話が成立するようでしない。もしかすると成立するかな?と思ったら直後にしなくなる。周囲の風景がすでにどうかしている。物理法則を無視したことが平気で起こる。出てくる敵もあるきっかけで何かきわめて重大な破滅をいまにも起こしそうなやつがいる。ある場所には、これもしかしてゲームのROMが壊れてんじゃないのと思うようなものがいる。いままで全ての町でかならずあの場所にいたあの人があの場所にいない。かわりにちょっとだけズレた場所にいる。RPGというゲームの本質上ありえないある「場所」がひとつ存在する。ハロー、そしてグッドバイ。←こう書くとちょっとだけグッドナイト・アンド・グッドラックみたいですね。映画の。

 映画といえば思ったのは、ここで描かれているのはつまりデヴィッド・リンチ的不条理なのではないかということだ。そこは素直にカフカ的不条理と言やいいじゃんと君は言うだろうが、カフカって読んだことないもんですいません無学で。
 つまるところすべてがつじつまが合ってるようで合ってなかったり、またはつじつまが物凄く合ってなかったり、無意味に唐突だったり、信じられないことが堂々と起きたり、そういう場所なのだここは。思えばここにやってくる場面の演出も『ブルーベルベット』を彷彿とさせる。よくある演出と言ってしまえばそれまでだが。それにしたってゲームでそんな演出やるのってなかなかないですよ実際。
 僕の知るかぎりそういう不条理的狂気を真正面からプレイヤーに体験させたゲームは、『サイレントヒル』シリーズとMOTHER2くらいだ。探せばまだあるような気が書きながらもすでにしてきたけど、まあいいじゃん僕はいまそう思ったんだから。

 この場面を心底恐ろしいと言う人もいる。ちょっと変わったイベントとしてとらえる人もいる。僕はといえば、けっこう楽しんでいる。うわあこりゃ発明だよ発明だとか喜んでいる。だって凄いんですよこれ、いったんRPGのお約束をよく理解した上で、それをプログラム単位に分解してものすごく絶妙にズラす方向に再配置してるんですよ。いわば脱構築の手法ですよ(脱構築って言えば何でも格好良くなると思って疑わない)。
 こういうのをさらりとやっちゃうからつくづくこのゲームは凄いよなーと僕なんかは思うわけですよ。さっき例にあげた『サイレントヒル』もゲーム自体はちゃんとしたゲームで、MOTHER2みたく自己言及的に(もちろん自己言及って言えばものすごく格好良くなると俺の勘が告げている)メタ化したテクストを(そろそろさすがにむしろ格好悪いと気がついてきた)、ええとつまりこんなの他でなかなか見れねえぜって話。
 そんな感じでけっこう客観的に楽しみながらこの場面を遊んでいたのですが、ただひとつ、セーブして電源を切る気にはなれませんでした。ここをクリアするまでは遊びました。だってここでセーブしたら何か大変なことが起きそうな気がするんだもの。そんなことはないと分かっていても、ついついそんな事を思ってしまうのがこの場所なのだ。

 « 前の記事
 « 「人生」トップページに戻る

コメント

【1】シスタン

当時小学生でMOTHERをやってたのですが、この町は怖かったですね〜。
あの頃は怖さをもっと単純にとらえてましたから言葉に恐怖する感覚は新鮮でした。

(2006.07.03 12:42PM)

▼コメントを書く

 « 前の記事
 « 「人生」トップページに戻る

「人生」から検索

「人生」RSS配信中

RSS 1.0 RSS 2.0 ATOM FEED RSD 1.0

(RSSの意味がわからないときは、気にしないのが一番です)

「人生」携帯版

アドレスを携帯に送る...

powered by MT4i