その馬鹿を極める
ごめんなさい実はいままで『スクライド』(マンガ版)買ってませんでした。
この告白を聞いて、ふざけんなよ! あんた少年チャンピオン大好きだってあんだけ言っといて、チャンピオンイズム全開のあのマンガを買ってなかったってどういうつもりだ! という声も当然あろう。あと、スクライドってなに?っていう声もあろう。
いや連載を読んではいたんですよ当時(2001年)から。あのころはまださほどチャンピオンコミックスを買う習慣がなかっただけで。
そんな僕でしたが、なんでも今月号のチャンピオンRED
(*1)で続編にあたる『スクライド・ビギンズ』が始まるとかなんとか。このさい前作をちゃんと把握しておくためにも単行本買っとこうかてな感じで買いましたよ全5巻。
いやあいままで買ってなかったことを後悔したマジで。
*1 チャンピオンRED
すべてにおいて間違ったような月刊少年マンガ雑誌ですが、毎号愛読しています。
面白いのは前からわかってたんだけど読めてなかった回もあったし、何より通して読むとその疾走感がハンパじゃねえ。どれほど生き急いでんのかというほどに全身全霊ノーブレーキで突っ走るストレイト=クーガーっぷり。このマンガがですよ?
まあたしかに第1巻のころはスピードもゆるめで、よくあるバトル漫画をなんか歪んだ絵(ものすごい濃い筆のタッチとところどころジョジョの奇妙な冒険第3部リスペクトな絵柄となぜか可愛い女子キャラ)でまとめてみました的な、ひとことで言えば「ちょっと変わったマンガ」でしかなかったとは思う。ところどころにぐっとくる決めゴマと妙なセリフ回しが散見される程度で、この時点ではまだまだ普通なマンガだ。
「なにっ!? 我が隊の立浪ジョージが倒されただとっ…!!?
Cクラスの能力者で 広域戦闘を得意とし 落ち着きがなく面倒くさがり屋で… 『太くて硬いビッグ・マグナム』を持つ ──最近アトピーで悩んでいた あの……
立浪ジョージがっ!!!」
しかし2巻ごろから何かがおかしくなってくる。具体的には箕条(みじょう)晶さんが出てきたあたり。もはや伝説と化した感すらある衝撃のコマ「
なんですって…!!?」が出てきたあたり。
アニメ版と決別するかのごとく箕条やハーニッシュらマンガ版オリジナルキャラがやたら生き生きと動き出し、散漫だったストーリーもきちんと1本スジが通ってくる。やりすぎにもほどがある必殺技「殲滅艦隊(ゴーランド・フリート)」とストレイト=クーガーの強烈な再登場シーンとともに2巻は幕を閉じ、そして3巻!
巻頭からの男同士の熱い対決で何かが弾けたのか、言語感覚のネジが外れてくる。笑わせるためのギャグゼリフではなく、大マジメにどこか妙なセリフが飛び出てきたりする。
「お前の 勝ちだ!!!」
「ああ あんたの負けだな」
そしてまたこのあたりから戸田康成の絵がノリにのってきてこの妙なセリフに妙な説得力がついてくる。ついてきてしまう。
「男泣き!!?」
暴走するセリフ! それをパワーアップさせる絵! いま読んでいるスクライドは、今まで読んでいたスクライドとは何かが違う!
「気持ちよく昇天しな!! あはははははははは!!」
「しね━━━━━━よ!! ははははははははは!!」
ついにふっきれる3巻ラスト、またしてもオリジナルキャラのメアリー=ジェーンがなんかもうどうだっていいやというぐらいにはっちゃける!
「それに!! 伊集院光だって 入ってるのよっ!!!」
カバー裏に書いてある「
TVアニメをベースに独自の世界を展開!!」ってこういう事なのか? なんだろう! もう好き放題に暴れまくるキャラ。ふざけてんのか「アルター仙人」って!
「まんまじゃね〜〜か!!?」
しかしただ世界観がすっ飛んでるだけというわけではなく、この勢いに乗ったままで熱いセリフとバトルの応酬をするという男展開!
「坊主 そうまでしてこのワシに反抗するかよ!!?」
「ああ する!」
「するか」
「する!!!」
もはや暴走特急と化したこのマンガを誰も止められない! ていうか本来だれかが止めるべき原作者・マンガ家・編集者の3人が一体となってついに最終巻の5巻に突入!
「こ…小林って なんだ……?」
だめだこの連中、(マンガで)やっていい事と悪いことの区別がついていない! だというのに、なんだ、この熱い空気は!
「だが俺が進む道の先に その答えはある!!!」
「……あるのか?」
「なくても見つけ出す!」
「クッ ククク…… クククククク…… フハハハハハハハ
…なら やれ!!!」
もはや2ページに1つ必ず見せ場がある凶暴なスピード展開!!
「臨時ニュ━━━ス!!!」
戸田康成の絵はこの時点ですでに行き着くところまで行ってしまっている!
「さあ 唱えよう!!!
s.CRY.ed!!!」
そして最後の敵、マーティン=ジグマールとの決戦! 1000対1の激動バトル! 変なところで驚くジグマール! もはやまともな事をひとことも喋ってないジグマール! しかし強い、あまりにも強いジグマール!
「『人間ワープ』なんだとよ」
「フッ… なるほど それは手強い」
だが!!!
「手強くても 勝つ!!!」
男と男が手を組んだ! この熱い展開に、なんだ一体そのふざけたっていうかメチャクチャな真の姿はジグマール! だというのになぜテンションが下がらないんだこのマンガは!
「許さん!!!」
「俺だって許さん!!!」(なんでお前が)
そして、そして……「
第41話/ギャラン=ドゥ」って何だ━━━━!!
「カッコイイだろう!!!」
ふざける時も戦う時もこのマンガは全力だ! まさに反逆! こんな、こんなにもバカなマンガなのに、一体なぜこんなにも感動的なんだこのラストは!
──嗚呼 人よ 神は知っているのです
この作品に通底するテーマを高らかにうたい上げる「
最終話/反逆」。今までの超絶スピード展開が嘘のように静かに、そして重々しく、爽やかに完結──って、え━━っ!!?
嗚呼 しかし カズマの反逆は終わらない───
エピローグ/そして反逆
バカだ! これ描いた人たち本物のバカだ! もうどっからつっこんでいいかすらわかんねーよ!
「その馬鹿を 極める!!!」
……というわけで、懐かしのセリフとともにお送りいたしましたスクライド全5巻の一応ネタバレにならない範囲のダイジェスト。あらためてどうかしているマンガだ。『覚悟のススメ』が切り開いた道をロードローラーだけで舗装したかのような凶暴きわまるマンガ。この作品が現在の少年チャンピオンの方向性を決めたと言って過言ではあるまい。
あまりにもひどすぎる悪ノリにもかかわらず、それが読者の胸をうつというある種の奇跡がここにはある。自分で言っておいてなんだがいったいどんな奇跡だ、それは。いまは感動とともに筆をおき、来週のチャンピオンREDを楽しみに待つとしよう。